2014年5月7日水曜日

リギ山のこと

世界最初の登山鉄道



 写真はスイス、ルツェルンのカペル橋と湖の向こうにそびえるリギ山(標高約1800米)です。(Photo by Luzern Tourismus)ルツェルンからリギ山へは,船でフィッツナウへ行き、登山鉄道で登ります。今年2014年は日本とスイスの国交樹立150年を記念する年です。私が訪れたのは1996年9月16日でしたが、世界最古の登山鉄道であるフィッツナウーリギ山の登山鉄道開通125周年を祝っていました。日曜日には昔の蒸気機関車も活躍しているそうですが、私たちが訪れたときにはフィッツナウの車庫に入っていて運行していなかったので写真は絵葉書で我慢しました。


帰宅後新聞(10月30日)に記事があり、旅を振り返る楽しみがありました。山頂駅リギ・クルム駅まで全通した1873年に、わが岩倉使節団が大統領に招待されて記念式典に列席していたとあります。手元の岩波文庫の久米邦武編『米欧回覧実記』には1873(明治6)年6月23日の記録があります。同書には銅版画でリギ山の風景や鉄道が掲載されていてこの機関車が写っています。
私たちが登ったその日の山頂は雲が降りていて展望が利かず残念でした。帰りの船を待つ間、フィッツナウの港近辺はこれ以上ないほど静かで、湖をわたってくるカウ・ベルの音が時たまカランカランと聞こえるだけ、人声も空に吸い込まれていくようなすてきな経験をしました。



ターナーの「青のリギ」

英国の画家ターナーはその水彩画で私たちの子どもの頃から人気がありました。つい先日までの神戸での展覧会も終って作品たちも英国に帰っていったようです。
19世紀の英国人の間では、リギ山はQueen of mountainsと呼ばれ、「リギに登ったか」が旅行者の合い言葉になるほど人気が高かったそうです。画家J.M.W.ターナーはルツェルン湖とリギ山の光と水蒸気のあやなす雰囲気をこよなく愛し、多くの作品が遺されています。ロンドンのテート美術館はターナーの遺贈作品を多く所蔵しますが、評判の高いスイス物が少なかったために、その蒐集に力を入れていました。そういうさなかの2006年、個人所蔵の名品「青のリギ」がクリスティーの競売に出され、ロシアの石油成金に580万ポンドという破格の値で落札されてしまったのです。ルツェルン湖とリギ山を描いた数多い作品の中でも「赤のリギ」「暗色のリギ」との姉妹作3点はいずれも1840年頃の水彩画で、なかでも「青のリギ」は最高傑作と言われていました。この国民的財産の国外流出を何とか食い止めるべく国を挙げての努力も買い戻し資金が調達できずに困っていたところ、美術館ファンドが案出した新機軸で不足資金獲得に成功して絵は無事に英国民の手に戻ったということです。2007年当時その快挙は資金集めの方法と共に大きく報道されました。案出された資金獲得方法は、インターネット上の絵の画面をたくさんの区画(ピクセル)に分割し、1区画あたり5ポンドで寄付金を募ったのです。名付けて「Buy a Brushstroke キャンペーン」、日本語で言うなら「ひと筆購入」でしょうか。応募者はその部分に名前が のこります。テートのサイトで「青のリギ」の絵をはじめ公募の詳細が分かります(英文)。
 http://www.artfund.org/savebluerigi/Introduction.html
記名されたピクセルの例
最近建築物に命名権を設けて資金を得る方法が出てきましたが、この美術館の手法もnaming rightsとして考えられたようです。大衆の資金公募のこの手法は、我が国80年代の天神崎を護るナショナルトラスト運動、戦前の寺社への奉納などと通底しますが、ネット利用ということではオバマ大統領の選挙資金集めに似ています。大衆の知恵や資金を集める方法としていろいろな方面に応用できそうに思えます。印象に残っている出来事です。