2015年4月18日土曜日

沖縄米軍基地問題―小熊英二さん、シンクタンクND

小熊英二さん                              
普天間基地

4月14日朝日新聞夕刊で小熊英二氏は辺野古への基地移転計画で対立する日本国政府と沖縄県の間で争われている問題は、日米関係を建設的な方向へ転換する以外に解決はないという。
沖縄の米軍基地は日本防衛のために存在するため、普天間基地を廃止すれば代わりの基地が必要であって、それは辺野古に移すほか選択肢はないと政府は主張する。しかし、沖縄基地の実態は世界的に展開する米軍の後方基地であって、日本の防衛には関係しない。政府主張は日米安保条約の意義を説明する「建前」に過ぎない。
軍事的に米軍基地は沖縄でなくてもいいとはアメリカが認めている。日米安保条約は「防衛条約」ではなく、日本に米軍基地を置くことを認めるための条約なのだ。1952年に条約に署名した吉田茂首相自身はこのことを理解していたが、その後の歴代政権は日米安保は日本防衛に必要と説明してきた。その建前はもはや実態に合っていないという。

小熊氏見解;朝日新聞「思想の地層」2015/4/14 

日米間で防衛条約が結べなかったのは、日本の憲法が戦力保持を禁じたことが一因である。
米国が攻撃された際に日本が軍事力を発動できない以上、相互防衛条約の締結は不可能だ。だからといって、米国が一方的に日本を防衛する義務を負うなどという、虫のよい条約はありえない。

そこで結ばれたのは、1952年に米軍の日本占領が終結した後も、米軍の駐留継続を保障した「安保条約」だった。当時は朝鮮戦争の最中で、米軍にとって後方基地としての日本は不可欠だった。米国が日本を守るという条約ではないが、米軍が駐留していれば結果的に日本への侵攻抑止になるだろう、という性格のものだった。

この「建前」の維持は、冷戦後はますます困難になっている。在日米軍の活動が、「極東」をこえてグローバル化したからだ。こうしたなか、辺野古移設が日本防衛に必要だと強弁しても、それが「建前」にすぎないことは、しだいに明白になってきている。

辺野古移設は「沖縄問題」ではない。それは日米関係の実態を、国内向けの「建前」で覆い隠してきたツケが集約的に露呈した問題だ。敗戦から70年を経た日米関係を、建設的な方向に転換することなくして、この問題の解決はありえない。(小熊氏見解終わり)


ちなみに日米安保条約の関連条文を引用すれば次の通り。
第5条には、「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する」とある。
第6条には「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することが許される」とある。地位協定がこの条項に付帯している。

以上の小熊氏見解は明快である。辺野古への移設は必須ではない。翁長知事の意見のとおり、普天間基地を返還させても、その代替基地を建設しなくてはならない根拠はない。
ここで先日の池澤氏の「さぁ、どうするか」である。

シンクタンク「新外交イニシアティブND」                
猿田佐世さん

4月17日翁長知事誕生以来初めて安倍首相との会談が行われた。これは単に双方の考え方を伝え合ったに過ぎない。沖縄にとって得るところはなかったが、沖縄の考え方を首相訪米時にオバマ大統領に伝えるよう要望した。反応はなかった。辺野古移設が唯一の解決策だとの首相の意見を「かたくな」だとして転向を申し入れたが首相に聞く耳はなかった。民意についての考えも聞けなかった。

沖縄はワシントン事務所を開設したそうだ。翁長知事も5月末には訪米する予定だという。安保条約について県はアメリカとは交渉できない。アメリカ政府にとって沖縄問題は日本の国内問題だ。けれども、沖縄事情についてアメリカで発信することは大いに意義も意味もあることと思う。
アメリカ政府のアジア担当者とか議員には時にはとんでもない無知な人達がいるらしい。シンクタンク「新外交イニシアティブ(New Diplomacy Initiative=ND、2013年設立)」の事務局長、猿田佐世さんがそういうことを話している(ジャパンタイムズ2015/1/5)。

軍事費が削減されつつあるアメリカ軍は辺野古代替論をてこにして日本の費用で基地機能を増大しようと考えているフシもある。しかし、軍と本国政府の考え方は同じと限らないし、元国防次官補ジョセフ・ナイ氏のような意見もある。


冷戦時代になぜ米軍基地が北海道につくられなかったのか。緊急事態に即応するには基地を南に下げておくほうが良いとの判断だったらしい。(「世界」5月号、寺島実郎氏と翁長知事の対談)ナイ氏の考えと似ている。
民意を背景にした翁長知事の柔軟かつ細心の方策によって日本政府の頭越しに事態が動くことがないとも限らない。日本政府と安倍政権をつないでいるのは意外に細い糸のようだ。アメリカ人の頭をリフレッシュするために、いまシンクタンクNDに期待しよう。
(2015/4)

2015年4月11日土曜日

池澤夏樹さんのコラムから考える

池澤夏樹さんのコラムから考える

朝日新聞夕刊に池澤夏樹さんがコラム「始まりと終わり」を月に一度連載している。くりかえし読みたいときには、ありがたいことに朝日新聞のサイトにこのコラムの一覧がある。
http://www.asahi.com/culture/columns/ikezawa_index.html    
池澤夏樹さん


4月7日の記事は日本国内から米軍基地を無くするために憲法を改正しようという提言を紹介している。
話のきっかけは矢部宏治著『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』(集英社インターナショナル)という本の内容だった。著者は基地も原発も止めようとしても日米安保条約と日米原子力協定があるから止められない。条約は憲法に従うはずが日本では違う、日米安保条約は憲法の上位にある。そして行政の最高位は日米合同委員会である。
こういうことで日本は自主的には何も出来ない、国家主権がないのだという。だから憲法を改正して、
改正憲法に、「施行後、外国の軍事基地、軍隊、施設は、国内のいかなる場所においても許可されない」という条項を入れれば、日本国内からアメリカ軍基地は一掃され、日本は国家主権を回復できる。もちろんアメリカは嫌がるだろうが、日本国民の総意とあれば従わざるを得ない。それを実現したフィリピンの実例もある
というのが提言である。そして、池澤氏は「さあ、どうするか」と結んでいる。

この本を私はまだ読んでいない。
矢部氏の著書には日本の現状についてなぜこうなっているのか、その理由と経緯が当然述べられているようだが、池澤氏は全部を紹介しているのではなさそうだ。けれども、普天間基地の辺野古移転実現に頑なな政府と、それを許さない沖縄県翁長知事との話し合いが始まったこんにち、最も熱いトピックとして池澤氏が取り上げたのも、一種いたたまれない気持ちの表れであると思う。
法理や日米関係の変遷など戦後政治にはいろいろ難しい面があるものの、それらを抜きにして今ニュースになっている事柄への対応として矢部氏が提案するようなことが実現できればいいなあと感じるのは私だけではないだろう。では、池澤氏はなぜ、さあ、どうするか、とここで立ち止まるのか。




無記名の「社会科学者の随想」ブログに憲法について池澤氏が書いていない部分があると指摘している。それは9条があるのは1条から8条までの存在であり、中身は天皇制に関する。天皇制存続と戦争放棄は裏表であって、制定当時の東京裁判観に起因する事柄であると。したがって、憲法改正するには天皇制をどうするかが避けて通れない。池澤氏はそのことを書かなかったと指摘している。
で、それなら天皇制についても議論を進めなくてはならないだろう。

以上2点がとりあえず考える問題として出てきた。そこで、さあ、どうするか、である。
池澤さんは安倍政権が進めている憲法改正の方向を右折から左折に変えようという。
現在の国会議員諸氏にこのことを期待できるかといえば望み薄だろう。ならば大変な事業だ。国民から声を上げるにはどうすればよいか。天皇制についてはとりあえず措いて、主権回復が先決だろう。

翁長知事の主張するように普天間基地は返還されるべき土地で、代替地を要求される根拠はない。日米同盟が必要であっても日米間の条約が憲法の上位規定である理屈は成り立たない。政治屋みたいな言い方はしたくないが、やはり憲法を取り戻そうと言わざるを得ない。池澤さんが書いているように憲法を改正して外国基地を置かないと明記したところで、統治行為論とかいう変な理屈が通るのでは同じことになる。砂川事件上告審で持ち出されたこの屁理屈が通るのであれば、憲法前文は何とも空々しい空虚な文言になる。実のある憲法にするには、行き着くところは安保廃止しかない。これこそ大事業だ。
そこまで言うことがためらわれるから、さあ、どうするか、となったのかもしれない。


参考事項
矢部宏治とは;www.asyura2.com/14/senkyo177/msg/514.html
矢部宏治という著者がどういう人かわからないのでネットを当たってみると文化放送の書き起こしサイトで少しわかった。信頼して良さそうに思える。

「社会科学者の随想」(blog.livedoor.jp/bbgmgt/)筆者のプロフィールはないが、安倍政権批判。
blog.livedoor.jp/bbgmgt/archives/1023811327.html

大西洋憲章;http://www.y-history.net/appendix/wh1505-042.html
平和憲法の前文と9条の文言の淵源は日米開戦前の昭和16年8月にルーズベルトとチャーチルによって調印された大西洋憲章にある。この憲章の理想は冷戦により実現されなかったが、国連には引き継がれている。

統治行為論;憲法と条約の関係
ja.wikipedia.org/wiki/統治行為論
砂川事件。基地は憲法違反とする伊達判決が無効にされた。

日米原子力協定については;saigaijyouhou.com/blog-entry-507.html

佐伯啓思 「異論のススメ」日本の主権 本当に「戦後70年」なのか (朝日新聞2015/4/3)
www.asahi.com/articles/DA3S11685246.html
1952年4月28日に(中・ソ除いて)戦争を終結した。主権回復(沖縄を除く)から63年。
主権のない国家が1947年5月3日に憲法施行した。公布は1946年11月3日。

(2015/4)