2015年4月11日土曜日

池澤夏樹さんのコラムから考える

池澤夏樹さんのコラムから考える

朝日新聞夕刊に池澤夏樹さんがコラム「始まりと終わり」を月に一度連載している。くりかえし読みたいときには、ありがたいことに朝日新聞のサイトにこのコラムの一覧がある。
http://www.asahi.com/culture/columns/ikezawa_index.html    
池澤夏樹さん


4月7日の記事は日本国内から米軍基地を無くするために憲法を改正しようという提言を紹介している。
話のきっかけは矢部宏治著『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』(集英社インターナショナル)という本の内容だった。著者は基地も原発も止めようとしても日米安保条約と日米原子力協定があるから止められない。条約は憲法に従うはずが日本では違う、日米安保条約は憲法の上位にある。そして行政の最高位は日米合同委員会である。
こういうことで日本は自主的には何も出来ない、国家主権がないのだという。だから憲法を改正して、
改正憲法に、「施行後、外国の軍事基地、軍隊、施設は、国内のいかなる場所においても許可されない」という条項を入れれば、日本国内からアメリカ軍基地は一掃され、日本は国家主権を回復できる。もちろんアメリカは嫌がるだろうが、日本国民の総意とあれば従わざるを得ない。それを実現したフィリピンの実例もある
というのが提言である。そして、池澤氏は「さあ、どうするか」と結んでいる。

この本を私はまだ読んでいない。
矢部氏の著書には日本の現状についてなぜこうなっているのか、その理由と経緯が当然述べられているようだが、池澤氏は全部を紹介しているのではなさそうだ。けれども、普天間基地の辺野古移転実現に頑なな政府と、それを許さない沖縄県翁長知事との話し合いが始まったこんにち、最も熱いトピックとして池澤氏が取り上げたのも、一種いたたまれない気持ちの表れであると思う。
法理や日米関係の変遷など戦後政治にはいろいろ難しい面があるものの、それらを抜きにして今ニュースになっている事柄への対応として矢部氏が提案するようなことが実現できればいいなあと感じるのは私だけではないだろう。では、池澤氏はなぜ、さあ、どうするか、とここで立ち止まるのか。




無記名の「社会科学者の随想」ブログに憲法について池澤氏が書いていない部分があると指摘している。それは9条があるのは1条から8条までの存在であり、中身は天皇制に関する。天皇制存続と戦争放棄は裏表であって、制定当時の東京裁判観に起因する事柄であると。したがって、憲法改正するには天皇制をどうするかが避けて通れない。池澤氏はそのことを書かなかったと指摘している。
で、それなら天皇制についても議論を進めなくてはならないだろう。

以上2点がとりあえず考える問題として出てきた。そこで、さあ、どうするか、である。
池澤さんは安倍政権が進めている憲法改正の方向を右折から左折に変えようという。
現在の国会議員諸氏にこのことを期待できるかといえば望み薄だろう。ならば大変な事業だ。国民から声を上げるにはどうすればよいか。天皇制についてはとりあえず措いて、主権回復が先決だろう。

翁長知事の主張するように普天間基地は返還されるべき土地で、代替地を要求される根拠はない。日米同盟が必要であっても日米間の条約が憲法の上位規定である理屈は成り立たない。政治屋みたいな言い方はしたくないが、やはり憲法を取り戻そうと言わざるを得ない。池澤さんが書いているように憲法を改正して外国基地を置かないと明記したところで、統治行為論とかいう変な理屈が通るのでは同じことになる。砂川事件上告審で持ち出されたこの屁理屈が通るのであれば、憲法前文は何とも空々しい空虚な文言になる。実のある憲法にするには、行き着くところは安保廃止しかない。これこそ大事業だ。
そこまで言うことがためらわれるから、さあ、どうするか、となったのかもしれない。


参考事項
矢部宏治とは;www.asyura2.com/14/senkyo177/msg/514.html
矢部宏治という著者がどういう人かわからないのでネットを当たってみると文化放送の書き起こしサイトで少しわかった。信頼して良さそうに思える。

「社会科学者の随想」(blog.livedoor.jp/bbgmgt/)筆者のプロフィールはないが、安倍政権批判。
blog.livedoor.jp/bbgmgt/archives/1023811327.html

大西洋憲章;http://www.y-history.net/appendix/wh1505-042.html
平和憲法の前文と9条の文言の淵源は日米開戦前の昭和16年8月にルーズベルトとチャーチルによって調印された大西洋憲章にある。この憲章の理想は冷戦により実現されなかったが、国連には引き継がれている。

統治行為論;憲法と条約の関係
ja.wikipedia.org/wiki/統治行為論
砂川事件。基地は憲法違反とする伊達判決が無効にされた。

日米原子力協定については;saigaijyouhou.com/blog-entry-507.html

佐伯啓思 「異論のススメ」日本の主権 本当に「戦後70年」なのか (朝日新聞2015/4/3)
www.asahi.com/articles/DA3S11685246.html
1952年4月28日に(中・ソ除いて)戦争を終結した。主権回復(沖縄を除く)から63年。
主権のない国家が1947年5月3日に憲法施行した。公布は1946年11月3日。

(2015/4)