2014年5月7日水曜日

「すみれの花咲く頃」― ニワトコの花とリラの花

今年100周年を祝う宝塚歌劇の愛唱歌。歌詞とメロディーがよく合って私の好きな曲です。
あるときアメリカのジャズ放送を聴いていたら、あのおなじみのメロディーが聞こえてきてびっくりしました。もともと演出家白井鐵造がフランスから持ち帰って「パリゼット」というレビュー舞台にのせたのですから外国で演奏されて不思議はありません。

私が聴いた放送は、ジャック・ヒルトン・オーケストラというのが1928年にベルリンで演奏したのを流していたのです。曲名は「When The White Lilacs Bloom Again」(白いリラが再び咲くとき)と紹介されていました。
ジャック・ヒルトン楽団はイギリスのダンス音楽を得意とする楽団で1920ー30年代にヨーロッパで活躍していました。
このベルリンでの演奏は1928年11月29日に「When The White Elder Tree Blooms Again」としてディスコグラフィーに記録されています。でも、タイトルはどちらも英語表示ですがlilac(リラ)はelder tree(ニワトコ)になっています。

この曲ははじめドイツでつくられてヒットしました。1928年オーストリアのフリッツ・ロッターの詩にフランツ・デーレが曲を付けました。「Wenn der weisse Flieder wieder bluht」がドイツ語の曲名です。日本語訳は「白いニワトコの花が再び咲く頃」または「白いリラの花が再び咲く頃」です。ニワトコとリラは画像で見ると同じ花ではありません。下左は西洋ニワトコ、右はリラです。


Flieder は私の三省堂『コンサイス独和辞典』には、ニワトコ とあります。しかし、ネットで見るとドイツ語表示の日本語訳にライラック、つまりリラとの説明もあります。英語の曲名もlilacになったり、elderになったりして、私たちを混乱させます。

宝塚からパリのレビューちゅうものを調べてこいと言われて出張した白井徹造さんは、丁度流行っていたこの曲を持ち帰って歌詞を日本風になおして使いました。そこでスミレを登場させたのです。リラでは当時の日本人にはピンと来ないと考えたか、ニワトコかリラかどちらか分からないからどちらでもないスミレにしたか。うまくいきましたねえ。それから80年あまりいまも盛んに歌い継がれています。

日本でスミレに定着したからニワトコでもリラでも関係ないじゃないか、日本ではたくさんの人がなんの疑問もなしに歌い続けています。こだわりの強い私は、このニワトコかリラか、どっちなのだろうと人知れず悩みながら答えが見つからずにいたところ、先日、あるブログで教わってやっと納得できました。どちらも正解だったのです。その内容をここに発表するのは憚られますからブログのURLをお知らせしておきます。関連するいくつかの疑問も解けました。お礼を申し上げます。



ドイツ語のタイトルのほうは1953年の同名の西ドイツ映画で再び脚光を浴びました。上にご紹介したブログではこの映画に出演した女優ロミー・シュナイダーに光を当てています。この映画は日本では上映されなかったようですが、脚本は原曲作詞のフリッツ・リッターです。そしてサウンドトラックはすべてフランツ・デーレ作曲で、「すみれの花咲く頃」の原曲が欧米で再び人気を博しました。アメリカではマジック・バイオリニストと呼ばれたヘルムート・ザハリアの演奏により1956年ビルボード9位になっています。

 ちなみに1928年の原曲はフォックストロットのダンス音楽、フランスに渡った際には歌もの、つまりシャンソンとして使われたようです。「パリゼット」では歌として使われたと思いますが、国会図書館デジタルコレクションには白井鐵三作詞、高木和夫編曲、出演は門田芦子と宝塚月組と記録され、戦前のコロンビアから1930年7月発売となっています。なお、「すみれの花~」はパリゼット(二)とされていて、別の曲「パリゼット(一)がありますが、ネットでは聴くことが出来ません(歴史的音源配信提供に参加している図書館で聴けます)。

http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3568095