音はどのようにして聞こえるのか。耳は入り口であって音楽であれ、言葉であれ、聞き分けるのは脳だ。途中伝達する器官に内耳の蝸牛がある。蝸牛の模型で有毛細胞の働きをうまく伝えていた。毛の物理的振動が奥の方で電気的信号に変えられて脳神経に伝わるそうだ。片耳で約1万5千個ほどの有毛細胞があるというが、この数はまだ確定していないようで記事によってまちまちだ。原理としては入口に近い高音用の細胞の毛から摩耗するから、年をとると高い音が聞こえにくくなる。そのことを説明するために放送ではガッテン係が考案した模型を使っていたが、本物の装置はこんな単純な形はしていない。
視聴者は摩耗した毛は再生しないという現実を知って衝撃を受ける。摩耗した部分が受け持っていた音が聞こえなくなる。補聴器はその部分を補うのが目的だから有用なのだ。言い換えれば、いまのところ医療では治せないが、補聴器で代用できるということになる。健康についてのテレビ番組は各局ともたくさんあってそれぞれに医師が説明している。だが高齢者の聞こえに関してはまだ医療は無力だから番組があまりなかったのではないか。
今度のガッテンは医師が説明して補聴器を使えと進言する。こういうことがテレビで堂々と言えるようになったのは、補聴器もデジタル機器に生まれ変わったからだ。いまでもアナログ式の補聴器はある。総じていえば集音拡声器だ。欠落部分を補うのはデジタルだからできることなのだろう。今回のガッテンは耳を使わないと認知症になるよという脅しに力点があるとみた。言い換えれば、聞こえが悪くなった高齢者は補聴器を使わないと認知症になるぞ、これは補聴器の宣伝みたいにも聞こえる。そこをとらまえて補聴器屋さんは定休日でもサービスに応じようと張り切ったのだろう。
河北診療所耳鼻咽喉科という耳の病院をインターネットで知った。ここまで親切に説明してくれる耳鼻科の医院は知らなかった。ある時突然音程が変だと気付いた時、知っていればたとえ仙台でも頼って行ったと思う。なにしろ訪ねた医院はどこもドレミファが狂って聞こえるという訴えには不思議そうな顔をするだけだった。その後も具体的に音程について触れている医師はネットで北海道の人だけだったと記憶している。今では自分なりに高周波数帯の楽音が聞こえにくいせいだと理解している。
で、聞こえなくなると認知症になるのか。番組は人との交流が大切と説く。それはよくわかっているが、補聴器をつけて会合に出ると、対話相手だけでなく周りの声や雑音も全部補聴器は拾ってくれる。人間の脳は聞くべき音と不要な音を区別して認識できる。いまの補聴器はその技術はまだない。だから補聴器に頼っての人との交わりに加わる気は失せてしまうのだ。ということでわたしは番組にガッテンできなかった。あれは健聴者のための番組だったのだとすねている。(2018/1)