2014年12月13日土曜日

原発避難は逃げても意味ない

IAEAの警告マーク2007年制定

このたびの衆議院議員選挙にあたっての論戦では原発に関係する議論が低調です。政府が再稼働に期待している九州電力の川内原子力発電所については、原子力規制委員会が安全対策が新規制基準を満たしているとの審査書を了承した。次いで地元の薩摩川内市の議会と市長が10月再稼働に同意し、さらに11月7日には県知事が同意した。12月には先に内容について指摘を受けていた工事計画と保安規定が規制委員会にあてて再提出される運びとなってるそうだ。

国際原子力機関(IATA)が定める原発事故に対する安全基準には5段階あるが、わが国では1.トラブル防止→2.事故の進展防止→3.重大事故への拡大防止→4.放射性物質の放出抑制の4段階まで国が関与し、5段階目の人への被害抑制(防災・避難)は原子力規制委の審査対象に含まれていない。
避難計画には国も助言はするが、実効性の確保などの審査は行わず原発から30キロ圏内の自治体に避難経路の策定を含む避難計画を義務付けている。

薩摩川内市では昨年度策定の計画では十分でないとの認識で今年度見直しを行うとしている。十分でないとする内容については、寝たきりなどの要援護者の輸送車や避難先での病院確保、避難者や車両の汚染検査(スクリーニング)の場所、緊急時のバス手配などとなっている(東洋経済ONLINE、2014年8月2日)。
10月24日には避難計画が違法であると要望書が出された。
www.jca.apc.org/mihama/bousai/kagosima_yosei_20141104.pdf

以上は今後最もはやい時期に再稼働されると予想される川内原発をめぐる現状です。

ここで文章になっていない部分に多くの問題点が隠されています。
手続きの上では再稼働するには地元の同意が必要とされていますが、その地元の定義(範囲)が定められていなくて、行われている手続きとしては原発の立地場所の薩摩川内市だけが地元とされています。一方で原発から30キロ圏内の自治体に避難計画の策定を義務付けているのに、そこに含まれる自治体の同意はとりつけないまま手続きが進められています。いったい地元の範囲と30キロ圏内はどういう関係と考えればいいのでしょうか。

何故立地場所の同意がいるかといえば、立地場所には危険が伴うからだということであり、その危険とは爆発事故及び爆発に伴う放射性物質の放出(いわゆる放射能被曝危険)である。
原発の立地選定には立地場所の住民による建設忌避のための反対に対して交付金を与えることで対処される。これが電源三法交付金の趣旨だ。交付する地点は主務大臣(文科、経産)と行政の長(県知事)が協議のうえ指定する。
結局、立地地元といえば交付金の対象地域と同じになると考えられる。

それでは立地地点と30キロ圏内で危険の程度が違うのかといえば、放射能の発生元が一番濃度が高いということはいえるだろう。どれだけ離れれば危険度が下がるかといえば放射性物質の流れ方による数値の変化にかかってくるから、確率論でしか言えない。つまり10キロであろうが50キロであろうが、それだからどうとは言えないのである。從って30キロという数値に何も権威があるわけではない。チェルノブイリで30キロで一応線を引いた事例があるからにすぎないということかもしれない。

(250キロ圏内は原発差し止めできると福井地裁判決
http://hunter-investigate.jp/news/2014/05/post-498.html )

交付金との関連で考えれば、川内原発の場合、30キロ圏内の自治体は万難を排して安全な避難計画を立てなくてはならないが、具体的には不足する車両その他の機器の手当て、道路整備、退避場所の建築など負担が大きい。交付金のあるなしで考えれば公平でなく不合理である。となれば再稼働の賛否を問えば反対することになろう。だから同意を求めないというのなら、見殺し的な考えだ。県としてはあり得ない結論だろう。県知事は国が責任を持つから苦渋の決断をしたそうだが、いったん事故が発生した場合に国は何ができるのであろうか。一番大切なことは住民の命に被害を及ぼさないことであり、事故が起きて放射性物質が降り注げば、せいぜい、ただちに生命におよぼす危険はないという前政権得意のセリフが聞かれるだけになりそうだ。それでも人間生きている間に異常発生のおそれはある。子どもには甲状腺異常があり、成人には忘れた頃に白血病だ。

(川内原発30キロ圏内の姶良市議会の意見は廃炉要求になった。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFB1702M_X10C14A7000000/ )

ここで避難計画について考えてみよう。薩摩川内市の検討事項での避難とは原発から遠くに逃げることを指しているように見える。ところが一番恐れる放射性物質はガス状あるいは霧状になって流れてくる。放射能雲、あるいは放射能プルームなどと呼ばれるように空中を漂うように流れ、そこから放射性物質が降下してくる。福島の実例が示しているのは、放射能は爆発の途端から飛散し、地上の人間が逃げる前、逃げる途中、逃げた先で降下物質を身体に受けた結果が出ている。千葉県の柏市や東京の世田谷区にもいわゆるホットスポット(局地的に放射線量が高い地点)が出現した。しかも2度発生している。放射能は逃げても被曝被害は防げないと知るべきである。降下する放射能の被害を避けるには浴びないことを考えるしかない。一番いいのはシェルターである。スイスでは一般住宅にシェルターが備えられている。日本では到底無理な相談だ。放射能雲は移動するし、含まれる核の種類と量も増減する。各所で測定されていたデータによれば放射能雲にはピークがあり、通過時間の予測もできるそうだ。

研究者の山田國廣氏はそのことを利用して浴びない工夫をすることを提唱されている。家庭でできるのは屋内で窓から離れた場所にいることや水槽やおむつを重ねて水を含ませて壁を作るなど実際的な方法を提言されている。ヨウ素剤を飲む代わりに作り置きの昆布だしを飲んでも効果はあるという。いずれも完全ではないがかなり有効なのだそうだ(「初期被ばくをいかに防護できるか」季刊誌『環』vol.58 藤原書店所収)。山田氏の提言の本来趣旨は、放射能は逃げても無駄だから浴びないことをまず考えよ。そこから原発をつくらないことが最善だという結論が導かれる。総理大臣流に言えば、この道しかないのだ。

国が責任を持つとか、30キロ圏内は云々とか、政治家や行政の言うことはすべて原発を作るための方便にすぎない。規制委員会が安全審査を承認したといっても委員は絶対安全だとは言っていないし、また言えないことを肝に銘じておこう。
使用済み核燃料の後始末も、除染後の汚染物質の始末も、保管場所の決定も何一つ解決していないままにエネルギーだ景気だという人たちの言うことに貸す耳は持たないことだ。(2014/12)